間質性肺炎とは
間質性肺炎ハンドブック
現在、間質性肺炎を患っていらっしゃる患者さんやそのご家族に対して、間質性肺炎という病気を正確に理解していただきたいという思いから、ハンドブックを作成いたしました。
いくつかの章から構成されており、当院の間質性肺炎・肺線維症センターのスタッフも執筆に協力してもらっています。
ぜひ、ご活用ください。
間質性肺炎とは
肺は空気の通り道である気道とガス交換(血液に酸素を取り込む一方で,二酸化炭素を放出する)を行う肺胞から成っていて、肺胞の中を実質、肺胞の壁を間質と呼んでいます。間質性肺炎は、原因不明(医学的には特発性と呼ぶ)あるいは100種類を超えるさまざまな原因から肺の間質が厚く硬くなり(線維化)、ガス交換(酸素を取り込み,二酸化炭素を排出する)がうまくできなくなる病気です。
間質性肺炎の危険因子として、加齢と喫煙、遺伝的素因が挙げられますが、その他、原因が明らかなものとして、関節に炎症が生じて変形が起こる関節リウマチや特徴的な皮膚症状と筋肉痛を主症状とする多発筋炎・皮膚筋炎などの膠原病(自己免疫性疾患)、抗癌薬、漢方薬、消炎鎮痛薬などのアレルギー反応による薬剤性、ほこりやカビ・鳥の分泌物・羽毛などを慢性的に吸入することによりアレルギー反応が生じ引き起こされる過敏性肺炎、職業上、アスベストやシリカなどの粉塵を吸入することにより生じるじん肺、放射線照射やサルコイドーシスといった肉芽腫性疾患でも見られます。
一方、原因を特定できない間質性肺炎は「特発性間質性肺炎」と呼ばれており、現在、6つの主要な特発性間質性肺炎、2つの稀な特発性間質性肺炎、分類不能の特発性間質性肺炎の9型に分類され、患者さんの約半数は「特発性肺線維症idiopathic pulmonary fibrosis; IPF」と診断されます。
間質性肺炎を疑うポイント
初診時の詳細な問診に加えて、胸部画像所見の特徴や経時的な画像所見の推移は、鑑別診断および治療介入のタイミング等を知る上で大変有用な情報となります。そこで、当センターでは、外来診察前の待ち時間を利用して、患者さんにオリジナルの問診票(図2)の記載をお願いしています。
また、ご紹介先の病院、先生方には過去の胸部レントゲン写真やCTを送っていただくようにお願いをさせてもらっています。
一般に間質性肺炎を疑うポイントとして、乾いた咳(空咳)や坂道や階段、平地歩行中や入浴・排便などの日常生活の動作の中で感じる息切れ(労作時呼吸困難)などの呼吸器症状、胸部聴診上、特に背下部で吸気終末時の捻髪音 (fine crackles)を聴取、ばち指の存在などが認められ、胸部CTでは蜂巣肺と呼ばれるような典型的な輪状陰影が肺底部の胸膜下優位に分布し、進行とともに肺の容積は減少します。
呼吸機能検査では、肺活量の低下、酸素を取り込む能力の低下、労作時の低酸素状態などが挙げられます。
ばち指
蜂巣肺
専門外来へ紹介するタイミング
間質性肺炎が疑われた場合は、まずその中でも頻度が最も高く、治療抵抗性で予後不良であるIPFを鑑別することが重要となります。また、最終診断の精度を高めるには、間質性肺炎の診断に精通した臨床医、放射線画像診断医、病理医による集学的検討が重要とされている点や、間質性肺炎の進行が予測できないだけでなく、時に急速に悪化し致死的な状況に至ることもあります。
したがって、上記のような自・他覚所見、検査所見が認められた際は、できるだけ速やかに専門医に相談、紹介するべきです。
間質性肺炎の診断と治療
先にも触れたように、間質性肺炎が疑われた場合は、予後の点および治療内容を決定する上でもIPF(特発性肺線維症)とそれ以外の間質性肺炎を鑑別することが重要なポイントです。 IPFに対しては、現在、ステロイド,免疫抑制剤は推奨されておらず、抗線維化剤であるニンテダニブ(オフェブ®),ピルフェニドン(ピレスパ®)が第一選択薬です。診断していく過程で、適応と必要性が高い場合は、外科的肺生検(胸腔鏡下肺生検)を行うこともあります。
明らかな自覚症状もなく無治療の安定期の間質性肺炎の患者では、3~6ヶ月毎の経過観察とします。
但し、薬物治療及び在宅酸素療法が必要な間質性肺炎患者においては、原則1~2ヶ月毎の外来受診が必要であり、上述の無治療経過観察の患者と共に6ヶ月毎の重度評価、効果判定を行うべきです。6ヶ月の経過観察中に5~10%以上のFVC量の低下を認めた場合は、積極的な治療が必要と考えます。本邦では、IPFの難病医療助成制度により認定基準を満たせば、高価な抗線維化薬を使用する際も高額医療費の軽減が可能になります。一方、非薬物療法として、酸素療法、呼吸リハビリテーションも適応患者に導入するべきと考えられます。
重症度分類 | 安静時動脈血ガス | 6分間歩行時 SpO2 |
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Ⅰ | 80 Torr 以上 | |
Ⅱ | 70 Torr 以上 80 Torr 未満 | 90%未満の場合はⅢにする |
Ⅲ | 60 Torr 以上 70 Torr 未満 | 90%未満の場合はⅣにする |
Ⅳ | 60 Torr 未満 | 測定不要 |
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